ロンドン大学で体性感覚を研究しているウォルボートらによる実験の話。
まず二人で向かいあってもらう。
次に相手の手を交互に押し合う。
つまり手押し相撲である。
このとき、圧力センサーを使用して押す力が実際にどれくらいなのかを調べられるようにしてみた。
最後に、それぞれの耳元で「相手に押されたのと同じ強さで押し返してね」とささやいておく。
耳元でささやいているので、相手には聞こえていない。お互いにどんなルールで相手が押してくるのか分からない、というもの。
さて、この実験の結果どうなったか?
素直に考えれば、この実験はお互いに押された分の力で押し返す、という同じことの繰り返しになるはずである。
しかし実際は押し返している力は、押された力の1.4倍になっていた。
これを繰り返すうちに瞬く間に、強烈な押し合い合戦へと変わっていった。ちなみに8回目には最初の15倍にまで圧力は高まっていた。
最初は軽く押す程度だったはずなのに、気がつけば全力で相手を倒そうとするゲームになってしまったのだった。それはもうほとんどケンカと呼べるものだった。
お互いにやられたことをやり返しているだけのはずなのにエスカレートしていく、というこの現象は、あらゆる所で見かけることができる。
ケンカやいじめ。ネットの炎上や、果てはテロまで…。
スタートは小さいことでも、やられたことをやり返していると、簡単に人は憎しみ合うようになってしまうのだ。
感想
憎しみは何も生まない、という言葉は嘘で、実際には憎しみはさらなる憎しみを生み、いつかは惨劇へと向かう。
私たちは本当に未熟で愚かで未完成である。
憎しみがいかにムダな感情であるか分かっているはずなのに、復讐せずにはいられない。
そりゃあ、争いが無くならなくて当然である。
戦争や炎上なんてものは自分から遠い所にあるものだと思っていたが、実は自分たちの手元から始まっているものなのかもしれない。